『幸せは不幸な出来事を装ってやってくる』「あとがき」のようなもの

ビジネスコラム

 私の此度の本には「まえがき」と「あとがき」がない。プロローグ、本文、エピローグで構成している。原稿を出版社に出したあとで最後に「まえがき」と「あとがき」を書こうと思っていた。ところが出版社から原稿の催促がないまま出版に至ることになった。出版社はプロローグ、エピローグで十分との判断だったのだろう。
 
 仕方がないのでこのブログで以前、「まえがき」のようなものを書かせてもらった。そこで今回は「あとがき」のようなものを書いてみたい。出版、発売から1か月半が過ぎての「あとがき」とは妙なものかもしれない。すでに多くの人に読んでいただき何人かの方からは感想をいただいている。
 
 私がこの本をどのような想いで書いたのか書こうかと思っていたら、私本人以上に的確に表現しているレビューを見つけた。「ビジネス書なのに難しくないし、人生の教えと云うほど押しつけがましくない。寧ろ、軽妙なリズム感にひかれて読み進むうちに、敢えて自虐気味に表現したユーモアですら著者の優しさや繊細さとわかると、涙時々笑いで読み終えられた。四書の「論語」「大学」を独自の解釈で解析した教訓を横軸に、「子供たちの子供たちのその子供たちへ・・・」伝える人生の経験を縦軸に、その構成力が高いので、今後もこの構成方法を生かして、更に具体的な企業サンプリングを組み込んで、執筆活動を続けていただきたい」
 
 誠に著者冥利に尽きるレビューを頂戴した。あくまでもビジネス書である。私自身の経営者としての成功と失敗、そして倒産という人生最大の挫折等の経験を子供たちに話しておきたい。10年という月日が流れ人生の振り返り、区切りとしたい。本には書き尽くせない、さらに多くの人たちとの係わりが人生を彩っている。
 
 私の人生に係わっていただいたすべての人に感謝したい。会社を倒産させたことでご迷惑を掛けた人たち、その後挫折から立ち直れず打ちひしがれていた私を支えて頂いた多くの知人、友人、親戚。そして何よりも身近にいてくれ苦労を共にしてくれた家族、なかでも妻に心から感謝したい。
 
 エピソード28、「妻をめとらば才たけて、みめ美しく情けある」は文字通り妻へのラブレターだ。面と向かって言えない妻への想いを書いたものだ。かつて源平合戦の最中、屋島の戦いにおいて平家の軍船に掲げられた扇の的を源氏の那須与一が見事に射貫き扇がばらばらとなった。扇の的とは扇の要のことだ。
 
 まさに私たち家族の扇の要が妻であった。妻が私についてきてくれてなければ私たち家族はばらばらとなり今のような平安、平穏な生活ができることはなかっただろう。事業経営者として忙しく動き回っていた頃も、実は家族の要は妻であったということ今にしてようやく分かるという体たらくだ。
 
 エピソード27、「摩訶不思議なもの。それは人と人との関係」では第1回の債権者会議の様子を書いた。主要取引金融機関であったT銀行の元担当者Y君、元支店長B氏の話を書かせてもらった。二人には世話になったと同時に大変なご迷惑を掛けていた。その両氏が私の本を読んだと連絡をくれた。
 
 元担当者Y君は関西で支店長、元支店長B氏はなんと今年5月にT銀行の代表取締役頭取に就任していた。B氏が先に本を読んでY君に連絡したらしい。「大石社長の本に俺とお前のことが出てる。買って読んどけ」と言ってくれたらしい。二人ともが懐かしく嬉しいと言って電話をくれた。
 
 T銀行には12億円という金融負債があった。負債総額の4分の一という多さだった。メイン金融機関には負債と同額以上の定期預金と担保物件が入れてあった。それに比してT銀行には本当に迷惑をおかけした。申訳ないと思っていただけに二人からの電話は嬉しかった。二人との再会を約して電話を終えた。
 
 本当の「あとがき」ならこうした出版後のことは当然書けない。これまでの本にも出版後の後日談がある。本の出版により新しい出会いがある。さらには思いもよらぬ嬉しい再会がある。本の出版の縁により多くの人と出会えることもまた出版の醍醐味だろう。