悩んでいるのに考えていると勘違い

ビジネスコラム

 ビジネスをしていると常に順風満帆などということは無い。必ずと言っていいほど次から次と問題が生じるものだ。経営者はここで頭を抱えてしまう。あれやこれやと、ああでもないこうでもないと考えを巡らす。夜も眠れず食事ものどを通らず、あげくに寝込んでしまう。経営者が深く考え込んでしまうことになる。
 
 こんなとき多くの経営者は考えているのでなく実は悩んでいる。考え込んでいるのでなく実は悩みこんでしまっている。さらにはどうしていいか分からず迷い惑うことになる。想いが堂々巡りし、まるで螺旋スパイラルをゆっくり下っているかのようだ。放っておくとビジネスを止めてしまうか潰れてしまう。
 
 どうすればいいのかと言えば簡単な話、悩まず考えろということだ。考えるということは問題を解決するために前向きに取り組むということだ。問題解決のための課題が出てくれば後は課題に取り組むのみ。これを繰り返すことで事が動いていく。いい結果が出るまで諦めず挑戦していく。
 
 私の事務所近くに数年前から古物商が店を構えている。古着、古本、中古雑貨など店主が面白いと思ったものを所狭しと乱雑に並べている。時たま覗いてみる。どれも私の趣味ではない。この品ぞろえで本当に商売になるのかと思っていた。出入りする客はそう多くない。次に覗くと女物の日本着物が多く置かれていた。
 
 しばらくして覗いてみると今度はスポーツタイプの自転車が数台売り物として置かれていた。店主の趣味だという。休日にはサイクリング仲間と思える人たちが数人集まっている。平日はこれまでと同じような閑古鳥が鳴いている。そうしていると今度は喫茶始めましたの看板が掛かっていた。
 
 物好きな私は客として入ってみた。それまでの商品であった古物の多くがかたずけられていた。勿論自転車も置いていない。喫茶の机と椅子は古物品を使っているのでひとつひとつが違っている。古民家をそのまま使っているので畳敷きで雰囲気はそう悪くはない。出し物はコーヒー、紅茶、ココアとクッキーのみだ。
 
 店主の思惑通りにはいかず相変わらず客が入らない。そのうちカレーのいい匂いが店から漂い始めた。好奇心旺盛な私はまた入ることにした。メニューはきのこ入りカレーときのこ入りハヤシライスのみ。味はそこそこにうまい。それでも残念ながら客足は全く増えることがなかった。
 
 そしてとうとう先日から店舗が閉まることになった。ある日、妻が「お父さん、あのお店のご主人さん、夜に自転車でなにか背負って出かけてるよ」と言う。何日かあと長女が「お父さん、あのお店の店主さんウーバーイーツやってるらしいよ」とのこと。そうか、ウーバーイーツを始めたか。
 
 店主は店主なりにいろいろと考えたのだろう。店舗に並べる商品をあれやこれやと試してみた。古物商から喫茶店へと業態まで変化させてみた。それでも思うように客が来ずとうとう店舗を閉めた。親が古民家の持ち主なので家賃が要らなかった。そのおかげであの状態で4年間開業できていた。
 
 もし私があの店主に相談されていたらこう言っただろう。「誰に何をどのようにして売るのかをまず明確にしよう」と。ビジネスの根幹であるところのこの部分を明確にすることからやり直しましょうということだ。私なら古物商の利点を活かしたビジネスモデルの構築に全力を挙げて取り組むだろう。
 
 おそらく店主は考えたのでなく悩んだのだろう。悩んだ末に迷い惑うことになったのだろう。そしてとうとう自分のビジネスを諦めウーバーイーツに逃げたのだ。悩むことは簡単だ。前向きに考えることは辛抱がいる。それでも考え抜いた末にしか道は開けることは無い。考えて考えて考え抜こう。