経営者が幸せでいることは難しい

ビジネスコラム

 会社が勢いよく成長している。業績がここのところ右上がりを続けている。ここ数年増収増益を続けている。誰が見てもまさに順風満帆このうえない。バイタリティー溢れる言動が周りの人たちを鼓舞し元気にさせている。経営者が見せる笑顔が社員を安心させている。そんな経営者がふと見せる浮かない顔に気づく人は少ない。
 
 経営を続けていると経営者がはまる落とし穴には事欠かない。誰かが仕掛けたのかと思うほど次から次と落とし穴が現れる。経営が順調であればあるほど落とし穴が用意されている。よくある飲む、打つ、買うはもとより、最も強烈な落とし穴がある。それは経営者の人格が知らぬ間に変化することだ。
 
 経営が上手くいけばいくほど経営者は知らず知らず増長し、うぬ惚れる。そして人の言うことを小ばかにし聴かなくなる。やがて傲慢不遜となり超ワンマン経営者となる。自身はそうとは思わず、自身をカリスマ経営者と思っている。得てして中小企業経営者より大企業経営者に多い話かもしれない。
 
 まるで人格まで変わったかのような経営者にも常人と同じく家庭というのがある。家では経営者といえども夫であり父親である。いっぱしの経営者ぶって飲む、打つ、買うに走ったことが少なからず妻との関係をおかしくし、子供たちとの関係にも微妙に影響を与えている。夫婦喧嘩が絶えず、子供たちが戸惑うことになる。
 
 時が経つにつれ家庭が殺伐とする。夫婦関係はとっくに破綻している。子供たちは父親が帰っても口を利こうとしない。特に長男は最近学校にに行くことができなくなり、引きこもってしまっている。長女は一見変わらずに見えるが、両親にはまるで無関心なようだ。最近長女の外泊が増えている。
 
 経営が順風満帆に見える経営者がふと見せる浮かぬ顔の原因の多くが家庭に原因がある。その家庭が上手くいかない原因の多くは経営者が夫として、父親として妻と子供たちにとった言動にある。かつては妻となった女性と幸せな家庭を作ろうと思っていた自分が自分の言動により家庭を壊すことになっている。
 
 妻との関係性を悪くし、子供たちとの関係性まで悪くした。すべて父親である経営者が招いた結果である。経営者は経営者である前に人であり父親である。いかに優良な会社の経営者といえども、いずれは素(す)の人にもどるときがある。そのときに自らの居場所を壊してしまっていてはとても幸せとは言えない。
 
 中国古典『大学』に次の一節、「その国を治めんと欲する者は、先ずその家を斉(ととの)う。その家を斉えんと欲する者は、先ずその身を修む」というのがある。その意味は、「国家を治めようとする者は、先ず自らの家庭を上手く運営することが大切だ。家庭をしっかりと治めるには、先ず父親自らが己を慎み、かつ律し、修養に努めることが肝要である」ということだ。
 
 言い換えるなら、「経営者は会社を上手く経営しようとするなら、先ず自らの家庭を上手く整えることが大切だ。家庭を上手く運営したいと思うなら、何よりも父親自らが己を律し修養に努めることが重要である」ということになる。経営者の家庭が円満で幸せであることが経営する会社を上手く経営することの必須条件かもしれない。
 
 経営者が幸せであることは本当に難しい。価値観は人それぞれながら、家庭が崩壊していても会社が上手くいっておればそれでいいという経営者がいるかもしれない。だが、ふと見せる経営者の浮かぬ顔には寂しさと悲しみを感じる。経営者である前に人であり、夫であり、父親であることをどうか思い出して欲しい。