親子経営 「僕シナジーという言葉が嫌いなんだ」と言う5代目社長

ビジネスコラム

親子経営 「僕シナジーという言葉が嫌いなんだ」と言う5代目社長

 地方の名門企業の5代目社長が社員に「僕はシナジーという言葉が嫌いなんだよ」と大きな声で言い放ったという話をします。

  先日、地方の中堅スーパー経営者とお会いしました。ある地方で13店舗の小規模スーパーと1店舗のコンビニを経営しています。親会社は地方の名門企業で90社近い会社を有しています。

 スーパーの経営者は親会社から9年前に赴任してきました。当初は長年続く赤字経営に苦しみ、不採算店の閉鎖などの構造改革を進めてきました。結果、3年前から黒字に転換したようです。

 以前は親会社のメイン事業である建設関連の仕事に従事しており、スーパーの経営には全く知識がなくとても戸惑ったようです。持ち前の頑張りで一心不乱に取り組んできただけですと謙虚に話されていました。

 私は以前、建設資材の販売会社を経営していました。その当時に彼の会社と取引をしており、彼が若い営業マンであった頃から親しくしていました。その彼と先日久しぶりに会ったとき彼から聞いた話です。

 グループ会社各社長を集めた経営会議が定期的に開かれており、あるとき彼がグループ会社の総帥である5代目社長と二人で話した時のことです。会話の途中で突然5代目社長が大きな声で「僕はね、以前からシナジーという言葉が一番嫌いなんだ」と彼にいったそうです。

 その話を彼から聞いた時、私は5代目社長らしい話だと妙に納得しました。5代目社長が言うシナジーとはグループ各社が互いにグループであることを理由にして甘え合う、馴れ合うことを指しています。

 5代目社長が言いたかったことは、グループ各社がそれぞれに真に独立した企業として自立して欲しいという意味でした。グループ各社の社員が互いに甘えることなく、陳腐な仲間意識を持つことなくそれぞれの役割と責任を果たしてもらいたいということのようです。

 日本にはかつて三井、三菱、住友などの財閥が経済界を牛耳っていました。各財閥にはそれぞれ社風があり伝統、慣習がありました。各財閥がそれぞれ競合する各業界企業を有し競い合っていました。そのことが良い意味でも悪い意味でも各財閥それぞれが社員に仲間意識を持たせることになりました。

 かつて高度成長時代は各財閥グループがシナジー効果を発揮し互いに発展成長したものでした。そして時代が変わりバブルが弾けると財閥グループというシナジーが逆に弊害となることが多くなりました。

 例えば三菱グループを思い浮かべてください。企業不祥事を幾度となく繰り返してきた三菱自動車、何年経っても飛ぶことのないMRジェットを開発し続ける三菱航空機などをみればその弊害が一目瞭然となります。

 5代目社長のグループ会社もやはり規模は小さいけれど同じような問題を抱えていました。若いころからそのことが5代目社長にはどうしても我慢ならなかったようでした。グループ意識を社員が持つことは帰属意識と愛社精神にも繋がる面があることも否定できません。そんな意識を持ったベテラン社員からは5代目に対して不信の目で見られることも多くありました。

 私もかつて取引会社の社長として5代目を業界の常識を知らない若造だと思ったことがありました。その後、5代目が社長となり業績を大きく伸ばしたことで廻りの評価が大きく変わっていきました。

 今回5代目社長がシナジーという言葉が嫌いだと言った話を聞き、彼は彼なりに問題意識を持ち経営者となったのだと改めて知らされました。私を含めかつてのグループ会社を知る世代にとって少し寂しい気がしますが、これも時代の流れであり、やむを得ないことでだと感じています。