親子経営 創業家御曹司の登板

ビジネスコラム

親子経営 創業家御曹司の登板

 私の前著『親子経営ダメでしょモメてちゃ』で書かせていただいたお家騒動のひとつに動きがありました。まだ記憶に新しいかと思います。2年前、セブン&アイホールディングスのカリスマ経営者鈴木敏文氏が突然のように職を辞しました。

 結局のところ、あの一連の騒動は何だったのか、改めて、お話ししてみようと思います。結論から言います。創業家の大番頭による、お家乗っ取り未遂事件でした。当時会長であった鈴木氏がご自分の次男を次の次の社長にするために仕掛けた人事案件が、創業家の知るところとなりストップが掛けられたということに尽きます。

 その当時、セブン&アイホールディングスの取締役には鈴木氏の次男と創業家である伊藤家の次男も取締役に就任していました。創業家にとっても将来を期待しているプリンスであった訳です。

 このような状況のなか、余りに露骨な動きをしたおかげで鈴木氏の思惑が多くの人の知るところとなってしまいました。辣腕経営者、名経営者といわれた人らしからぬ策動であったとしか思えません。カリスマ経営者が血迷ったと取られても仕方のない一連の言動でした。

 多くの識者がこの件でコメントし、記事にしています。まことにいろんな見方意見があります。なかには、ホリエモン氏のように「創業家の嫉妬で名経営者の晩節を汚した」として創業家の介入を批判する方もいました。

 ホリエモン氏がいう創業家の嫉妬とは、創業家本来のビジネスであるイトーヨーカ堂の業績が不振であるのにセブンイレブンのコンビニ事業が順調であることへの嫉妬、ということのようです。

 私はこの主張には与しません。あくまでもセブンイレブンもイトーヨーカ堂も同じ創業家のビジネスであり、セブンイレブンを生え抜きの優秀な社員に任せていたということになります。鈴木氏は昔で言うなら、創業家の番頭であり、後出世して大番頭さんになった訳です。

 創業家から見ると当たり前のことですがそう見えます。よって、ご自分のホールディングスの下で順調な事業と不振な事業があるということでしかありません。ましてそこに嫉妬などあるはずがありません。

 では、何があの名経営者の晩節を汚せたのでしょうか。ここでも結論からいいます。それはまさに父と子という関係性が為せたことだったと言えます。鈴木氏ほどの人物であったとしても我が子は特別な存在です。

 当たり前のことですが、父親にとって息子という存在ほど厄介なものはありません。これほど愛おしく、かつ疎ましく、これほど扱いにくい相手はありません。いつの時代も、如何な人物といえども悩みの種は我が息子でありました。

 私に言わせるなら、そもそもご自分の会社でもないのにご自分の息子を会社に入れた時点で間違っていたということです。誠に残念なことながら、やはり長年大きな会社のトップにいたことで、知らぬ間に傲慢になり慢心してしまっていたのではないかと思われます。

 先日の日経新聞に創業家エース表舞台にという記事が出ていました。創業家伊藤家の次男順郎氏の動向が記されていました。鈴木親子が去り、井阪社長の下で帝王教育が着々となされているように思われます。

 大企業に於いて創業家が経営トップに就くことの是非はあくまで人物次第の話です。セブン&アイホールディングスのような大きな組織のトップの座というのは人を選ぶものです。創業家御曹司が今後どのような座り方をするのか注目してみたいと思います。