親子経営 繁盛と繁栄の秘策  その強さと真価 4 代々に亘る顧客との強い結びつき (2016年3月11日)

ビジネスコラム

代々に亘る顧客との強い結びつき

同族企業の強さのひとつが取引先との長年に亘る強い顧客関係です。互いに同族企業であることが多い取引関係がとてもユニークです。オーナー同士の繋がりがあり、家と家との付き合いがあり家族どうしの交流があったりします。

互いの冠婚葬祭への参列はもとより、なかには婚儀を結ぶことで姻戚関係になることまであります。いずれも今の取引関係をより強固なものにし、さらに信頼関係を深めようとする動きです。

私が大学を卒業し親父が経営する地方の建材会社に帰ったときのことです。息子が帰ってきて入社したということで取引先を親父と一緒に挨拶周りをしていました。地元で一番大きなゼネコンへ緊張しながら訪問しました。

社長への挨拶が終わり次に専務と面談したとき専務が私にこう言いました。「お前が大石の息子か。お前は勝手に結婚したらあかんぞ。お前の嫁は俺が決める。」大学を卒業したばかりの私は面食らってしまいました。

これはえらい大変なところに帰ってきてしまったと思ってしまいました。建設業界とはなんとも恐ろしい世界だと思いました。自分の結婚まで取引先に決められてしまうのかと考え込んだものでした。

当時まだ若くて生真面目な私はその後ずっとその専務の言葉が気にかかってしかたありませんでした。今の妻と見合いで出会って結婚を決めたとき、真っ先にその専務のところへ報告に行きました。

「専務、実は先日見合いをして結婚しようかと思うのですが、いかがでしょうか。」と、恐る恐る話しました。すると「そりゃ、よかった。」とにこりとして言われたので内心ほっとしたものでした。

今でも妻に言われます。もしそのときその専務が「そりゃ、あかん。お前の嫁は俺が決めると言うたやないか。」と言われていたらどうしたのと。本当のところどうしたのかなと思うと可笑しくなってしまいます。

論語から一節、「有子曰わく、信、義に近ければ、言復(ふ)むべきなり。恭、礼に近ければ、恥辱に遠ざかる。因(よ)ること、其の親を失わざれば、亦宗(そう)とすべきなり。」

例によって私なりに解釈いたしますと、「有子が言いました。約束ごとが道義に適っていたなら言葉通り行われる。謙譲は礼儀に適っていたなら屈辱を味わうことはない。ひとを頼るにはそのひととなりを見間違わなければ真に頼ることができる。」

当時先ほどの専務が初対面の私に言ったことは彼にすれば戯れにすぎない些細なことでした。しかし私はその後彼の人となりを見るにつけ専務をとても信頼し尊敬をしていました。

その彼が初対面の私に「お前の嫁は俺が決める。」と言ってくれたことが私にはとても嬉しく誇らしく思えたものでした。その後、専務から社長になられ公職へと転身されましたが今でも相変わらず可愛がって頂いています。

同族企業の取引先オーナー同士が互いに信頼しあうことができればこれほど強い結びつきはありません。少々のトラブルがあろうと信頼に基づいた解決策が必ず見つかるものです。

互いに親の代からの付き合い、さらには祖父の代からの付き合いなどという取引先がざらにあるものです。長い時間をかけた信頼、信用というのはなにものにも代えがたい財産です。