親子経営 繁盛と繁栄の秘策 父親がしてはならない7つのこと 5   危急存亡のとき  (2015年11月6日)

ビジネスコラム

危急存亡のとき

会社経営をしていると日々さまざまな問題が起こります。社内業務上のトラブルに始まり取引先とのトラブルにいたるまで、大小いろいろなことが起こります。なかには企業の存続を揺るがすような大きなトラブルがある日突然に表面化することがあります。

また好事魔が多しと言うように業績が順調なときに得てして不祥事や事故、事件などが起こるものです。一瞬にして企業が苦境に陥ることがあります。経営者の真価が問われる瞬間です。

経営者が泰然自若として落ち着いて事に当たるのか、慌てふためき動揺して対応を誤るのかで事後の状況が大きく変わります。願わくば経営者が冷静沈着に問題の本質を見極め自らの責任と役割を果たして欲しい場面です。

先日来世間を騒がせている企業不祥事があります。横浜のマンション傾斜問題です。私がこの事件で一番驚いていますのが、販売元である三井不動産レジデンシャルと建設請負元である三井住友建設の経営者の顔が見えないことです。

正式な謝罪会見がなく取材に応じるかたちでのコメントが出たにすぎません。そのうえどこか他人事のような当事者意識がまるで感じられない様子が窺われました。まるですべての責任が建設請負の2次下請けである旭化成建材にあるかのような振る舞いでした。

さらにもうひとつ私が驚かされたのが旭化成建材の社長の言葉でした。まるですべての責任を現場でデータ管理をしたベテラン社員ひとりに押し付けようとしているかのような内容でした。

経営者自らの責任については一言も触れず、ひたすら自社の社員の不始末、不祥事として押し通そうとしているようでした。あげくには自社の社員の人格を貶めるかのような発言まで飛び出す始末でした。

そして先日の旭化成建材の謝罪会見では社長の出席がなく常務執行役員が代わって謝罪をしていました。少なくともあの場は経営者自らが出るべきところでした。

上記3社の経営者に共通していることは責任を他社、他者に押し付けているところです。自社、自己には責任がなく、すべての責任は他社、他者にあるという無責任な姿勢です。

論語の一節に「君子は諸(こ)れを己に求む。小人は諸れを人に求む。」と、あります。私なりに読み解きますと、「君子たるもの何か事が起きたとき、すべての責任を自らに求めるものだ。それに対しつまらぬ者はすべての責任を他人に求めるものだ。」となります。

孔子の時代も今の時代も人は変わらず同じ過ちを犯すものです。企業の経営者がしかも有名な大企業の経営者がそろいもそろって己の責任を果たすことなく他に責任を負いかぶせる様はなんとも無様としか言いようがありません。

しかも責任を下へ下へと強いものから立場の弱いものへと押し付ける姿は見苦しいものです。大企業の経営者と言えども所詮はサラリーマンの成れの果てなのでしょうか。経営者としての責任と覚悟が無いのだとしか思われません。

最後に論語よりもう一節、「子の曰く、君子固(もと)より窮す。小人窮すれば斯(ここ)に濫(みだ)る。」とあります。私なりに解釈すれば、「君子といえども困窮することはまま起こることだ。ただ、つまらぬ者たちは少し困ると動揺しうろたえてしまう。」と、いうことでしょう。

オーナー企業経営者がこのような不祥事に遭遇した場合、対処するにあたりどこにも逃げ場が無いのだと覚悟しておいてもらいたいところです。取引先に責任転嫁をしようなど考えないことです。まして自社の社員に責任を押し付けるなど考えるまでもないことです。

危急存亡のときこそ経営者が泰然自若としてあること、冷静沈着に事にあたることです。問題の本質を見極め迅速な対応をこころがけ、すべての責任が経営者にあることをまず明らかにすることです。それでこそ道が開けるというものです。