コクリコ坂の相克 (2011年8月15日)

敬天愛人箚記

敬天愛人にもどる

先日、スタジオジブリの宮崎駿・吾朗親子の壮絶な確執を映した番組を偶然見ました。親の会社を息子が継ぐといった話ではなく、才能だけが勝負の世界で、父親と同じ仕事を選んだ息子と父親の物語でした。父親はアニメ業界のたたき上げであり、苦労を重ねた末にアニメ映画監督になった苦労人です。芸術家であり職人でもあります。息子は全く違う世界から飛び込んできたただの素人でした。その転身に父親だけでなく母親も激しく反対したと言います。「才能がすべての世界だから。」と。父親の気持ちは複雑でした。「この仕事をなめるな。俺は若いころから苦労を重ねここまできたんだ。才能が必要であり、何よりセンスが問われる。そんな甘い世界じゃないんだ。」一方、息子も複雑です。子供のころから父親が作るアニメが大好きでした。父親の仕事に憧れていました。「父親と同じ仕事をしたい。父親に認めてもらいたい。父親に追いつきたい、超えたい。」

父親は「あいつには制作の仕事は向かない。才能がない。やめたほうがいい。」と語りました。息子は「親父の助言はいっさい聞かない。最後まで自分の力でやり遂げる。」と言いました。父親は息子が幼いころ、息子に見せるためにたくさんのアニメを作りました。息子は父親のアニメを見て育ちました。父親は息子が成長するにつれ、仕事が忙しくなり、家庭を顧みる余裕が無くなっていました。そのころのことを今、後悔しています。息子が成人し建設関係の仕事に就いた時、安堵の気持ちと何か寂しさを感じたはずです。息子は成長するにつれ、父親から離れようとする意識があり、父親とは違う世界で生きる決心をしていました。もっと離れようと考えていました。

そんな二人が同じ仕事をすることになってしまいました。父親は反対しながらも心の中で応援していました。息子は父親の力を借りず自分の作品を作ると意気込みましたが、出来上がった作品には、父親の若いころの作品を彷彿とさせる場面が随所に見られました。今回が息子にとって2作目の作品になります。試写を見た後、父親が「俺を少しは脅かしてくれ。」と言ったのが印象的でした。それは決して息子の仕事を認めた訳ではないけれど、アニメ映画制作同業者のひとりとして認めた瞬間だったのでしょう。

宮崎親子には互いを想う愛情があります。どちらもどう接したらいいのか分からないのです。親父は心の中では、息子が自分と同じ道を歩き出したことに、戸惑いながらも喜びを感じています。才能、センスは教えられませんが、それ以外のことは教えてやりたいと思っているに違いありません。そう思う一方、自分が歩んできたように、息子も自分の足で一歩ずつ歩くしかないとも分かっているのです。息子は子供のころの夢が叶いました。大好きであったお父さんと同じ仕事ができることに心から喜んでいます。才能がすべてであることも承知しています。しかし敢えてこの厳しい世界でやりたいのです。息子は父親に認めてもらいたい一心です。親父のような作品は作れないけれど、親父が認めてくれる作品をつくりたいと願っているようでした。

古今東西、父と子の相克は繰り返されています。愛憎混じり合いドラマになります。宮崎吾朗氏の今後の作品、楽しみです。