Mへの手紙 (4)~長所と短所~

敬天愛人箚記

Mへの手紙 (4)~長所と短所~

前略

貴方のいないお正月はこれで何度目でしょうか。
今年は上のお姉ちゃん夫婦が来てくれ4人でお正月を迎えました。

下のお姉ちゃん夫婦は旦那の実家へ大晦日から出かけていきました。
孫たちがいないお正月はなんとも静かなものでした。

そういえばアメリカでは年末年始は普段通りなのですね。
その代わりに年末にクリスマス休暇があったのでしたね。

先日貴方に頼まれた日本の有名スポーツブランドのアメリカ支社への
紹介の件です。
私の青年会議所時代の先輩の会社がスポーツショップを多く経営されて
おり、もしやその会社と取引があるのではと聞いてみました。

結果、大当たりでしたよ。
先輩の会社に以前そのスポーツメーカーの会長の孫が営業担当でしばらく
来ていたとのことでした。

早速その彼に連絡を取ってみようと言ってくれました。
会長の孫ということは将来その会社の社長になる人かもしれません。
上手くいけばとても面白いことになりそうです。
そのうち連絡があり次第、貴方にお伝えします。
楽しみに待っていてください。

さてまた少し私の昔の話をします。
貴方には何度か話したかもしれませんが、私の親父は会社を経営していま
したが経営者というよりは商売人といった風が強い人でした。

それ故に私が親父の会社に入った頃の会社はその体を成していませんでした。
組織とかそのルールとかいったものがあるにはあったのですが、親父が必要
と思っていなかったのか機能していませんでした。
親父が作った親父の商店とその従業員たちといった様でした。

今思えば、親父と社員たちの間には私には分からない良好な関係性があった
に違いないと思えるのですが、当時の若い私には秩序といったものがない
だらしないただの田舎の会社に思えました。

特に親父がトラブルを起こした社員に対してみんなの前で口汚く罵り叱るの
が私には気になって仕方ありませんでした。
また、トラブルを起こす社員というのは不思議なものでいつも決まった同じ
社員が起こします。

それだけにいつも同じ社員をみんなの前で決まったように口汚く罵り叱ること
になります。
傍から見ていると今でいうパワハラであり、虐めかと思ったものでした。

また逆の場合には、大きな取引を見事成立させたとしてその社員をみんなの前
で褒めちぎっていました。
私にはそれがことさらわざとらしく依怙贔屓かと思えたものでした。

何故なら親父は私にだけ話すときは、いつもつまらぬミスをしてトラブルを起
こす社員を実は地道な仕事ぶりだと認めていました。
一方、みんなの前で褒めた社員のことは出来る男だが信用出来ないなどとこき
下ろしていました。

私は親父のそういった二面性を見せられるのがいやでたまりませんでした。
そして、そんな親父の下で働く社員たちが気の毒に思われました。
私が社長になったら冷静に客観的に公平で公正な評価をしようと思ったもので
した。

お父さんが学んでいる論語の中に次の一節があります。
「子曰く、君子は人の美を成し、人の悪を成さず。小人は是に反す。」

お父さんなりに読み解くと、「ひとかどの人物は他人の長所を上手く引き出し
他人の短所を極小化出来るよう努める。つまらぬ人物は他人の短所を目立たせ
折角の長所を消してしまう」

お父さんは社長になったとき極力こうありたいと思って社員たちと接したつも
りでした。
社員のいいところは認めてやりたい、そして至らぬところは叱って直してやり
たいと思っていました。

そのうえで適材適所に社員を配置し社員の力を存分に発揮してもらいたいと願
ったものでした。
今思えば最も成し得なかったのが社員を認め、褒めるということでした。

私は親父のようにわざとらしくともまず褒めるということが苦手でした。
本当に心から素晴らしいと思ったことには絶賛して褒めることができたのです
が、滅多なことでは出来ませんでした。

もっともっと社員たちを認めて褒めてやればよかったと、これもまたお父さん
の数ある後悔のひとつです。

また今夜も長くなりました。
まだまだ寒い日が続きます。
風邪など引かず元気で過ごしてください。

父さん