トラウマ (2011年7月26日)

敬天愛人箚記

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私が40歳のとき、ある会での講演を頼まれました。テーマは私が長年取り組んできたことなので事前準備を十分にせず、講演に臨みました。結果は無残なものでした。話の途中で頭が真っ白になり、言葉に詰まり胸が苦しく息ができなくなりました。それが始まりでした。その場から逃げるように出た私は、一日も早く失態を忘れたいとだけ思っていました。それ以来その経験が私のトラウマになりました。

それから数か月後、社員の婚礼がありました。主賓としてのスピーチを頼まれました。よくあることなので準備もそこそこに出席しました。話始めは順調でした。突然、息苦しくなり頭が真っ白になりました。いったい何が起こったんだろうと思いました。あれほど人前で話すことに長けていた私が、まさか婚礼のスピーチで言葉に詰まるなんて考えられないことでした。

私は昨年10月からビジネススクールに通いだしました。授業では発言したり、プレゼンテーションをすることがありました。私の順番が回ってくるにしたがい、手に汗をかき胸が苦しく息が詰まるようになりました。「ひょっとしてこれは上がっているの?」初めて私が気付いた瞬間でした。私が上がり症になるなんて考えもしませんでした。過去にトラウマがあり上がり症であることがはっきりした私は、なんとか克服しようと色んな本を読んでみました。結論は実践して少しずつ回復させる以外ないようでした。

そんな私の目にとまったのがトーストマスターズクラブでした。藁にもすがる想いで通い始めました。新入会員になり5回目の例会で6分間スピーチがあたりました。準備期間が2週間ありました。私のやり方は原稿は書かず、ストーリーを組み立て何度も何度も自分の言葉で練習を繰り返すことでした。過去にトラウマになった原因は準備不足でした。今回は何としても成功させたいと思った私は、ひたすら練習を繰り返しました。例会当日、始めから私の番がくるまで緊張が何度も繰り返し襲ってきました。手にたっぷりと汗をかき、何度もハンカチで拭いていました。また同じように失敗するのかという想いが頭をよぎりました。あれだけ練習したのだから大丈夫と何度も自分に言い聞かせていました。

久しぶりのスピーチを終えた瞬間、安堵とともにそれまで張りつめていた緊張が体から抜け落ちていく快感を味わっていました。メンバーのあたたかくやさしい心が私に伝わっていました。私のスピーチが上手くいくようにと、みんなが願ってくれているのが解かっていました。私のトラウマの原因は明らかでした。充分な準備と多くの練習を怠ったことです。自分はスピーチが上手いと過信し、いつものこととなめて掛かったからでした。今回のスピーチで私はもう大丈夫だと思います。これからは緊張感を感じながら、緊張している自分を意識しながら、自分の心と気持ちをコントロール出来ると確信しています。