経営者の親子関係は難しくて当たり前

ビジネスコラム

 以前は後継者からよく相談の電話があった。父親である経営者が横暴でワンマンで後継者の話を聞こうとしない。話をしていても反対意見を言ったり批判をしようものならすぐに切れてしまう。気に入らなければ会社に来なくていい、今すぐ出て行けと言う。なかには後継者の妻が後継者に代わって泣きながら相談の電話がくることもあった。
 
 最近は父親である経営者からの相談が変わってきている。以前は息子である後継者の面倒を見て欲しいというのが多かった。近頃は息子である後継者と上手くコミュニケーションが取れず困っている。息子が父親に相談もなく勝手に仕事を進めている。経営を譲ろうと思っているが息子が何を考えているのか分からず不安だ。などの相談が多くなっている。
 
 得てして業績が良い企業の経営者は知らず知らずに傲慢不遜となりワンマン経営者となりやすい。そこまでいかずとも自分の経営手腕、経営方針に自信を持っているので他人の話を聞くことは難しい。息子である後継者の存在を必要とはしているものの、後継者の意見に耳を傾けることは稀である。
 
 一方、業績が思わしくない経営者は自分自身に自信を持て得ないでいる。昨今のような先行き不透明なときは、息子である後継者の意見を求めたい、手伝って欲しいと思っている。しかしながら息子との間に知らず知らずの間に確執ができてしまっている。素直に息子に意見や助けを求めることができず困っている。
 
 経営者となった父親は息子が幼い時は仕事が特に忙しいと決まっている。家のことは妻に任せっぱなし。当然子育ても妻が主に担うことになる。亭主元気で留守がいいと達観してくれる妻なら有難い。多くはそうではないだろう。留守がちな夫に不満を持ちながら子育てをすることになる。
 
 息子は幼いころは忙しい父親がたまの休日に家にいることが嬉しい。少し大きくなると休日ごとに父親が何かとああしろ、こうしろということがうるさく思うようになる。いつしか休日、一日中父親が家にいることを疎ましく思うようになる。息子が成人すると親子の会話など記憶にないほどすることがない。
 
 そんな息子が父親が経営する会社に後継者として入ることになる。父親が横暴でワンマンな経営者であるなら息子は当然反発することになる。気が強い息子なら日々親子で言い争うことになる。気が弱い息子なら父親に逆らえず精神的に追い詰められることになる。いずれにしても親子の確執が高まることになる。
 
 経営する会社が業績が良くなく自信を失くしている父親が経営者なら、気が強い息子なら一日も早く父親に代わろうと勝手に動き回ろうとするだろう。気が弱い息子なら父親の少しでも役に立とうと動くのだが業績の悪化を止められず自らも自信を失うことになる。いずれの場合も親子の確執は増すことになる。
 
 父と子の関係性、特に父親と息子の関係性は古今東西を問わず、なにかと厄介で複雑なものだ。我が子が可愛くない父親はそういない。父親にとって息子が出来たときの嬉しさは格別のものがある。自分の血筋を残したといった満足感、達成感、安堵感のようなものを感じる。これで自分も一人前の男になったとも思う。
 
 本来、そんな息子が可愛くて可愛くてしかたないはずであるが、息子が成長するにつれ少しずつ関係性が変化する。ひとつ何かが違うと父親にとって息子というのはこれほど厄介で複雑な存在はない。愛しくて愛しくてたまらないと同時にこれほどどうしようもなく複雑で難しい存在は他にないことになる。父親にとって息子とは愛しくて厄介な存在だといえる。
 
 親子の関係性を改善することは簡単ではない。しかし不可能なことではない。互いになんとかしたいと思うところから始まる。いくつかやり方がある。ひとつは互いの距離感を適当なものにすることだ。近からず遠からずといった微妙な距離感を保つことだ。物理的距離感、精神的距離感を意識することだ。
 
 もうひとつ云うなら、関係性を変えたいと思う方から自分の言動を少し変えることだ。相手に対する自分の言動を変えるということはある意味、自分が変わるということになる。相手に変わって欲しいと思うならまず自分が変わること。よく云われることだが人間関係は相対関係であることから、これは正しいことだと思える。厄介だけれど試してみて欲しい。