経営者の選択はいろいろあっていい

ビジネスコラム

 
 友、遠方より来る。先日、昔のJC(青年会議所)仲間が久しぶりに顔を出してくれた。一瞬見間違えてしまった。互いに寄る年波の変化が著しい。彼は羨ましいような真っ白な髪。私の方は白髪交じりの禿げ頭。互いに顔を見合わせ苦笑い。話始めると自然と30年前の二人に戻っている。
 
 彼は祖父から続く地場産業を経営している。かつては彼の田舎に同業者が40社あったという。それが現在残るのは彼の会社を含めたった5社だという。繊維関連だけに世の中の流れの激しさに翻弄され続けている。彼の代はなんとかやり続けようと思っているが息子には違う道を歩かせたいと言う。
 
 今の時代このようなケースが多くある。製品を製造するのに大きく複雑な設備が必要となる。創業当時は多額な設備投資費も活況な需要があるお陰で回収されていた。それが時代の変遷とともに外部環境が大きく変化する。需要が多い製品であることから競争が激しくなる。少しでも安く製品を供給するため各企業が競い合う。
 
 繊維関連企業の場合、競争に勝つため国内生産を諦め、人件費が安い外国に製造拠点を持つことになる。そして安い製品が国内で売られることで国内に残った企業の多くが淘汰されていく。私の友人の会社が置かれている状況はまさにこのような環境下にある。設備が日に日に古くなっていくが新しくする資金が無い。
 
 たとえ資金があったとしても回収できるだけの利益が確保できない。そんな状況下ではとても投資意欲など起ころうはずがない。彼のように息子がいても息子に継がせようとはとても思えないのは当然だろう。祖父の代から続いた会社を自分の代で終わらせようと彼が思うのも無理はない。まさに断腸の思いだろう。
 
 事業承継が困難なケースが多く見られる。その原因と理由にはいろいろなことが考えられる。私の友人のようなケースは意外と多い。後継者がいなくて廃業する企業も多いが、後継者がいるにもかかわらず廃業や清算に向かうケースも多くある。企業が親から子へ事業を繋げることの難しさは時代の流れと共にさらに増している。
 
 親子経営コンサルタントとして活動している私は多くのケースと出会っている。私が関わる企業は基本、後継者がいる。そして経営者は後継者に継がせたいと考えている。私のコンサルフィーがそう安くないこともあり、私の顧問先は総体に財務内容が良い。そういうケースでは後継者の育成、指導にフォーカスしている。
 
 私の友人の会社のような環境下にある企業では事業承継よりも現状の業績をどう上向かせるかにフォーカスしている。そのプロジェクトリーダーを後継者にやらせている。そうすることで後継者が会社の現状、現況を理解し業務の見直し見極めをすることができる。そのうえで少しずつ成功体験を積ませることで自信を持たせる。
 
 いずれのケースでも大事なことがある。それは経営者と後継者、それぞれの覚悟が何より必要だということ。経営者は自分の会社の現状を誰より一番分かっている。その会社を息子である後継者に継がせることが本当にいいのかどうか。いいと思うなら後継者に代わるための準備と心からの真摯な覚悟をすることが大事だ。
 
 もう一方、自分の会社を自分の代で終わらせようと思うなら、経営者は会社をどのように終わらせるのか慎重に検討しその準備と覚悟が必要となる。後継者は会社を継ぐ、継がないにかかわらず、いずれのケースでも自分の力で自分の人生を切り開いていくという覚悟が必要である。
 
 経営者は会社を継続させることができるが、会社を終わらせることもできる。できることなら会社を長く継続させることが望まれる。しかしながら現実には日々多くの会社がその寿命を終えている。経営者は会社の行く末を選択することができる。それに伴う責任と覚悟が必要なことは言うまでもない。