親子経営 繁栄と繁盛その秘策21 続 プロローグ(2015年6月22日)

ビジネスコラム

続 プロローグ

親子で企業経営をする難しさの原因は、前回プロローグで書いたように、皮肉なことに親子だからということに尽きます。親と子のなんとも厄介な関係が企業において経営者と後継者という立場では、なおさら複雑怪奇な様相を呈することになります。

親子の問題の解決は親子の関係がこれまでどのようであったか、今現在どのような関係であるのかを問うことから始まります。親子の問題の本質は親子の関係性にあると言えます。企業における親子経営を上手く機能させるには、この親子の関係性を良くする以外にありません。この関係性をどのようにすれば改善させることができるのかが、今回のコラムのテーマです。

親子の関係性をよくするためにできることは二通りのやり方があります。ひとつは、これまでの親子の関係をビデオテープを巻き戻すように少しずつ時間を遡って見てみることです。あるいは一気に子供が生まれたときのころまで戻ってみることです。そして子供が3才になったころ、幼稚園、小学校に行き出したころと順番に現在に至るまでじっくりと辿ってみることです。

その作業を親子ふたりでやれればそれにこしたことはないのですが、現実はそうはいきません。別々であってもかまいませんので二人の関係に絞って記憶をたどっていきます。そうすることで、まるで古くなったセーターを編み直すのに毛糸を少しずつ解くように親子の関係を解きほぐしていきます。そうしていくことでどこかで綻びが見つかります。

運よく上手く過去におけるふたりのターニングポイントが見つかったなら、その出来事がなぜ起こったのか、その出来事の背景になにがあったのかなどをじっくりと考察してみます。そうすることでこれまで互いに気付かなかったことが意外と多く発見されるかもしれません。当時の互いの感情や想いまで見つめ直してください。少なくとも互いに父親には父親の当時の事情があり、子供には子供なりの感情、事情があったのだと認めて欲しいと思います。

親子が互いに過去の自分と相手に出会うという経験をすることが、現在の親子の関係に小さな変化を起こし、その関係性を著しく変えることになります。時間と手間が掛かる方法ですが、今現在親子の関係で悩まれている経営者と後継者にはひとつの処方としてこれを勧めます。

さて、もうひとつの方法が今回のテーマです。先ほどとは違い、面倒な手間がいらずまたとても簡単なことです。それは、親子の関係性を改善するために互いの言動を少し意識をして変えるということです。ただそれだけのことで驚くほどの変化が相手に起こります。

親子の関係性は、それまでのふたりの関係性の連続によって成り立っています。企業の決算書のバランスシートが日々の試算表の積み重ねであるのと同じように、ふたりの関係性も過去の日々の関係性の積み重ねです。そしてまたふたりの関係性は企業のバランスシートが財務内容の良しあしに関わりなくバランスが取れているのと同じように、親子の仲がいい悪いに拘わらずその状態で取りあえずバランスが取れているということが言えます。

そしてそのバランスが取れている関係性に少し変化を与えてやることで、ふたりの関係性の質を変えます。バランスを取ろうとする働きを利用して変化を起こさせ、関係性の質を変えていきます。その少しの変化というのが、互いの言動を少しずつ意識して変えるということなのです。

たとえば、これまで会社であまり互いに会話をすることがなかったという親子がいます。ある朝から息子が「社長おはようございます」という挨拶をし始めたり、なにかことがあるごとに息子が父親に対し「ありがとうございます」などと言い始めたりしたとします。言われた父親は「あれ、どうしたんだろ」と思いつつ、初めは大した反応をしなくても、日が経つにつれ悪気がしなくなり、そのうち息子を見る眼に変化が少し出てきたりします。

人間関係は基本、相対の二人の関係です。凹凸関係とでも言いましょうか、こちらの言動に対して必ず反応します。たとえば、こちらが言い過ぎれば相手は気分を害しますし、こちらが感謝すれば相手は嬉しく思うものです。互いに相手の言動に対しある程度予想された反応をします。この道理が分かるなら、やらぬ手はないでしょう。まずは自分の言動を少し変えることから始めればいいのです。

次回からいよいよ本題に入っていきます。親子の関係性を改善するための親子それぞれのやるべきこと、そして最後に親子経営の強さと弱さについて書いていきます。