親子経営の「死角」

ビジネスコラム

 

親子経営企業には経営者自身には見えない、分かっていない、そして思わぬ「死角」がいくつかある。いわゆる弱み、欠点といったこととは微妙に違う。

経営者のなかには経理、会計が苦手だという方が結構いるものだ。苦手だけれど自分で気をつけ、本を読んだり税理士に聞いたりしながら少しずつ理解できるようになっているという経営者は結構いる。私が言う「死角」とは、学べばなんとかなるという弱み、欠点とはまた違う。

例えば、「経営者は人事が苦手」だ。特に親子経営企業においてはなおさらのこと。創業経営者の場合を想像してみよう。創業時、経営者は人を雇う余裕がなく、身内親族に手伝ってもらい操業することが多い。

また、創業時に厳しい経営状況のなか、ともに苦労をして支えてきてくれた社員がいる。その後、時が経ち経営が安定し会社が発展するとともに多くの社員を雇用することになる。そんななか気がつくと、経営幹部や部署長に身内親族、古参社員ばかりが就いていることになる。

今では彼らの仕事ぶりや普段の言動に甘えや、身勝手さを感じている。彼らの部下からは上司である彼らに対する不満や批判が聞こえることが多くなっている。創業経営者は頭を抱えてしまうことになる。

 さらに、「経営者の家庭の乱れが会社を脅かす」ということがある。経営者にはいろいろな落とし穴が待ち受けている。昭和の時代のような話だが、飲む・打つ・買うは男の甲斐性などと嘯く経営者がかつては結構いたものだ。

経営が上手く廻り始め、経営者の時間とお金に余裕ができると碌なことはない。顧客とのゴルフだ、接待だと夜な夜な夜の街に出かけることが多くなる。そこでついつい羽目を外すことになる。

そうするといつしか夫婦の仲がおかしくなり始める。やがて家庭がそれまでと違い、妙に寒々としたものになる。経営者の家庭が乱れたことが、それとなく社員に影響を及ぼすことになる。

経営者の日々の言動が社員の経営者への不信に繋がっていく。会社の雰囲気がどことなく澱み初め、社員の覇気が失われていく。社外でも経営者の評判が少しずつ悪くなり、やがて取引先にまでよからぬ噂が聞こえ始めるようになる。こうして経営者の行いが家庭を乱し会社を脅かすことになる。

 また、「お家騒動は致命傷となる」ということがある。昨今では、あまり大きく記事となるような「お家騒動」はないが、少し前の大塚家具などが典型的なものだ。身内親族が経営権を争うことで起きることが多い。

 

大塚家具のような著名な企業だけでなく、身近なところの会社でも結構多くこのようなトラブルは起きている。父と子だけでなく、兄弟姉妹が相続を含め、家業である会社の経営権を相争っている。

「お家騒動」もまた、社内外に大きな影響を与えることになる。大塚家具の例ではないが、父と娘が最後まで互いに譲ることなく経営権を争った末に、肝心の会社自体が他人の手に渡ることすらある。

 もう一つの「死角」は、「親子の関係は厄介だ」ということだ。私のこのブログで最もアクセス数が多いのが「父と子の関係性が厄介なのには理由がある」というものだ。実に世の中の多くの親子がそれぞれの関係性が上手くいかず悩んでいるかが窺がえる。

父と子の間には、なぜか「確執」が知らぬ間に生じていることが多い。私自身、亡くなった親父との間に確かに「確執」があった。驚いたことに、私と私の息子の間にも知らぬ間に「確執」ができていた。

私たち親子の「確執」の原因は明らかに私側にあった。私が必要以上に息子に干渉したからだ。私の私の息子への「執着」が、ふたりの「確執」を生む原因であったと、今なら素直に認めることができる。

 最後の経営者の「死角」は、「驕る社長は久しからず」だ。人の上に立つ立場になり時が経つと往々にして、驕り、高ぶりが生じてしまう。私のような凡人経営者はすぐに偉そうにしてしまうことになる。

驕る平家は久しからずと、よく言ったものだ。人は少しばかりの成功で己を見失ってしまう。経営者の傲慢と独善が会社を危うくしてしまう。すべてを失くしてから気づくことになる。

 親子経営企業の経営者の「死角」は文字通り経営者本人には見えていない、自覚できない、分からないことなのかもしれない。しかしながら、どれもが企業にとって、経営者にとって致命傷となることばかりである。

後日、当ブログでそれぞれの「死角」についてもう少し深く掘り下げて話してみたいと思っている。