人生のスパン (2011年8月29日)

敬天愛人箚記

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私の長男は昨年6月にシアトル大学を卒業し、現在アメリカで就職活動中です。なにせ、大卒就職率23%のアメリカですから、苦戦しているようです。たくさんの企業にオファーを出しています。うまく見つからなければ、アルバイトしながら大学院へ行こうかと言っています。いずれにしても親の私に資金力がありませんから、自分の力でやってもらわねばなりません。それにしても、人生の長さからすれば、若い時の1年や2年は、何があろうと大した違いはありません。特にアメリカでは、自分がしたい仕事をみつけ安定した生活をし始めるのは、30歳前後になるのが、ごく普通かもしれません。

日米の大学の違いは大きいようです。日本では高校生が大学を受験するとき、何学部かを選ばねばなりません。18歳で、まだ世の中のことが分からないのに、一生の進路を決める可能性がある学部を選ぶには時期尚早と思われます。アメリカでは入学してからメジャーを選択すると聞きます。入学していろんな学問を学んでから、自分がやりたい学問をメジャーにするのが、合理的で理想的だと思います。私の息子はビジネスとファイナンスがメジャーでしたが、大学院では薬学を取ろうとか訳の分からないことを言っています。ま、それだけ選択肢が多様だということでしょう。

一方、日本では大卒就職率が91%になったと大騒ぎです。22歳や23歳で一生の仕事を選ぼうとすること自体、何か変ではないでしょうか。まるでサラリーマンになるために大学に進み、サラリーマンで一生終えることが目的とでも言うような日本の実情は、どこかおかしくないでしょうか。もっと多種多様な選択があっていいのだと思います。就職以外の道もあります。起業することもひとつの道です。アルバイトをしながら世界中旅をすることもありです。アルバイトをしながら大学院に進むこともそうです。とにかく、大学を卒業してすぐに一生の仕事を選ぶのは相当無理があることです。

日米の大卒就職率の差は景気の差でしょうか。それほどアメリカの景気が日本以上に悪いとは思えません。いろいろな理由がありそうですが、ひとつには企業が求める人材の違いにあると考えられます。アメリカの企業はまず、実践力を求めます。そして経験と知識を求めます。そのうえで、個性豊かで創造力があり前向きで行動力がある個人を求めます。企業の採用方針や理念は非常に合理的で現実的です。そういう意味では新卒の新人はあまり魅力的な人材ではありません。一方、マニュアル化した社会ですから誰でも出来る仕事も多くありますが、サラリーは安いのです。

日本企業の求める人材は、体制に従順で順応できる者、和を大切にし協調性がある者でしょう。最近では一部企業の採用に変化があるものの、採用にあたっては保守的で慎重でもあります。例年、就活の季節になると、同じ黒のスーツに身を包んだ若者たちが企業回りをしている姿に異様さを感じ、哀れを感じます。いずれにしても、日本の若者たちが自分の一生の仕事を決めるのには、もう少し時間と経験が必要です。高校生が大学受験で学部を決め、大卒で一生の仕事を決めることに少し無理がある気がします。人生をもう少し長いスパンで考えるべきでしょう。平均寿命が伸びる中、学ぶ期間、仕事につく準備期間、就業期間を意識して設けることもいいのではないでしょうか。長い一生、慌てることなど何もありません。日本の若者に、より多様性のある働き方と、どんなときにも臨機応変な生き方ができるようおすすめします。