出版奮闘記(1)

敬天愛人箚記

出版奮闘記(1)

そこは本当に小さな出版社でした。
70がらみの社長とベテラン女性社員がひとりの小さな会社でした。
東京は湯島天神裏に立つ昭和に建てられた雑居ビルにその会社があり
ました。

そこは私の本を私が書きたいテーマで出して頂ける唯一の出版社でした。
初めてその社長に会う前に、お世話を頂いた出版コーディネーターの
K氏から「M社長は少し気難しいところがあるので出来れば大石さんが
大人な対応をしてあげてください」と言われておりました。

「では、これこれこういう条件で契約お願いします」とM社長さん。
「あの、2つほどお願いがあるのですが」と私。
「1つは表紙のデザインのことです」
「デザインは私の方に任せて頂きます。専属のデザイナーにすべて
お願いしていますから」とすかさずM社長。

「こういうイメージでお願いしたいのですが」と私は参考にと持参
した数種の表紙を差し出しました。
「こういうのは私のところではいたしません。まして白が基調など
ありえません。自分の思い通りの本を出したかったら自費出版に
したらいいんです」
と、宣われました。

実はその出版社のすべての本のデザインが統一されたものでした。
どれもみんな赤、黄色、青そして緑を基調にしたものばかりでした。
お世辞にもセンスがいいとは決して言えるものではありません。

ここだけはどうしても譲れないと私。
「私の本だけはなんとか私のイメージ通りにしていただけませんか。
それでないと自分の本を自信をもって人に勧められません。
お願いします」

「自分の気に入ったイメージの本でなければ売る気になれない、
そういうことですか」
と、M社長が言われるので持参した表紙の見本を引き上げようとすると
「まあ参考にその表紙は預かっておきます」
と言われるので後は任せる他なくなりました。

「もう一つのお願いは行間をゆったりと取って欲しいのですが」と、
恐る恐る言いました。
「私のところはページ17行と決まっています」とすかさずM社長さん。
「そこをなんとかお願いします。あまり字ばかりが詰まっていると
読みにくいのではと思うのですが」

「今どきよくあるあんなスカスカな本はうちではやりません。
読者に失礼です」
「いやー、でも読者にもいろんな人がいますから」
「そんなに言うなら自費出版でやられたらどうですか」と、
またまた出ました伝家の宝刀。
「うーーん」
「うーーん」と、私。

ここで切れたら折角商業出版で決まったものが哀れ水の泡と消えて
しまう、などと考えながら
「うーーん」
「分かりました。今回は特別に16行でやります」
「え、ありがとうございます」

こんな経緯があってなんとか今回の『親子経営 ダメでしょモメてちゃ』
が世に出ることとなりました。
おかげさまで表紙のデザインはその出版社がそれまで出した本のイメージ
とはまるで違ったものとなりました。
また行間を少し広くしただけでページを開いた時に感じる圧迫感、窮屈感
がなく見やすいものとなりました。

後で出版コーディネーターのK氏の話を聞くと、出版社の社長M氏が私の話
をし始めると必ず顔をしかめていたとのことでした。
M社長とそこまで交渉をしたのは大石さん、あなたが初めてですよと言われ
ました。

私にすれば今回の本を出すには明確な目的があります。
私のコンサルティングと経営塾に顧客を誘導することに他なりません。
そのためには一人でも多くの方にこの本を読んでもらわねばなりません。

さて、出版はされてもそこは小さな出版社のこと、放っておいては本が書店
に並ぶことはありません。
そのことに危機感を持った私は自らできるだけのことをするしかないと動き
始めました。

続きは次回