成長の迷路 (2011年12月21日)

敬天愛人箚記

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最近、与野党問わず、政治家の多くが経済を語るとき、日本経済をまず成長路線に乗せることが重要であるとか、日本経済全体のパイを大きくすることが大切であると言います。では、どうやって成長戦略を描くのかというと、みんな一様に経済評論家がいうところのマクロ経済政策を述べているにすぎません。日本は、もうすでに10年以上もGDPを伸ばせずにいるというのにです。様々なマクロ経済政策がなされたにもかかわらず、GDPはずっと停滞しています。もういい加減、政治家や官僚は現状認識を改める必要があります。「成長」という言葉を使えば、今にもすべての問題が解決されるかのような論調は何の意味もありません。「成長」という言葉を使うがゆえに、より深く迷路にはまり込んでいるかのようです。

日本の総人口が減少に転じ、特に15歳から65歳までの生産年齢人口の減少が著しいという現実を冷静に見つめねばなりません。GDPの基本要素の一つである人口が減少し続けているにもかかわらず、GDPを上げようとするところに無理があります。なかでも、経済活動の主役である生産年齢人口が減少しているのですから、当然、所得総額が減り、消費総額も減ります。内需がどんどん縮小しているのです。この現実を無視して、如何なるマクロ経済政策を打とうと、GDPに大きな変化は望めません。まるで、藪医者が誤診をして処方箋を出しているようなもので、何の役にも立ちません。

この10数年、GDPが停滞しているのには、原因と理由があります。その原因と理由を冷静に見極めた上で、経済政策を打つべきです。政治家は官僚が出す数字に踊らされ、御用学者の論を鵜呑みにして発言しているように思われます。

それでは、どう考えるべきでしょうか。なるほど日本経済全体のパイは大きければ、それにこしたことはありませんが、国民一人一人の所得が増えなければ意味がありません。まず、政府がやるべきことは、かつてイギリス政府が行ったように徹底して、小さな政府、小さな行政体を目指すことです。経済の発展とともに大きく膨らんだ中央政府、地方自治体を、これからの実状に合わせ、小さくしていくことです。すべての行政サービスを見直し、質を高め、民間に任せるものは任すことです。大阪の橋本市長が知事時代に行い、これからやろうとしている政治改革は、まさに同様のことだろうと思います。彼の発言はときに過激な面もありますが、彼の言う政治改革は、誠に理にかなった適正なものだと言えます。

次に、日本経済は明らかに内需が減少し、それに伴い供給も減らざるおえない状況であることを認識せねばなりません。言い換えるなら、日本経済は総量の減少に伴い、質的変化を求められています。具体的には、売れる商品が変わり、求められるサービスが変わるということです。また、65歳以上の元気な高齢者が無理をせず仕事が出来る環境、そして、女性の就労人口がもっと増える環境作りが求められています。さらに、元気な日本企業が今以上に海外で活躍することで多くの外貨を稼ぐことも大歓迎です。内需の減少によりGDPが減少しても、大切なのはGDPの内容です。国民の平均所得がそこそこのレベルにあり、幸福感が今以上あればいいのだと思います。いたずらに、成長という言葉に惑わされることなく、適正かつ適度な経済規模を維持することが、真の経済政策の目的ではないでしょうか。