預金通帳経営 (2011年12月16日)

敬天愛人箚記

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会計を何も知らなかった親父が、実は一番よく分かっていました。私は昨年10月からビジネススクールへ通い、アカウンティングの基礎を学びました。長年、中小企業経営者として生きてきた私には、なるほどそういうことだったのかと思うことがたくさんありました。そのひとつが、会社経営は現金主義が原則だということでした。

25年前に経営者になった私は会計がよく分かっていませんでした。本を1、2冊読んだ程度でした。決算書もなんとなく分かる程度でした。経営者はそう細かいところまで分からなくても決算書が見れればいいと、勝手に思い込んでいました。

当時は、まだバブル崩壊前でしたので、経済全体が右上がりの成長を続けていました。土地の価格は上昇を続けており、株はどの銘柄を買っても上がるような気がしたものです。ゴルフ場の会員権も誰もが疑うことなく、投資のひとつとして買ったものです。そんな風潮のなか、当時の金融機関からキャッシュフローという言葉を聞いた記憶がありません。今でこそキャッシュフロー経営などと言いますが、その頃はいい投資物件があれば、主婦にまで融資した時代でした。

私の会社も建設業界が好調であり、業績は順調でした。また社歴は古く、財務内容も良く、借入金も少ない状態でした。そんな状況で、金融機関は必要なだけ融資する姿勢でしたから、手元資金を意識することがありませんでした。そのころ私の会社は売上高に比べ預金額が非常に多くありました。何人かに、そのことを指摘されました。それほどの預金を置いておくのはもったいないことだと、その半分を何かの投資に向けることが効率的なことだと言われました。

私の親父はそんな時も、銀行の定期がいくらあるかをいつも気にしていました。私に定期は絶対減らすなとも言っていました。私は自己資本比率さえ高めればいいと考えていましたので、預金はそれほど必要だと思っていませんでした。親父のように一から事業を始めたことのない私には、金融機関と取引をし、融資を受けることの難しさなど知る由もありません。私が社長になったときには、すでに金融機関とは取引が当然のごとく行われていましたから、私が経営するにあたって特に手元資金を意識することはありませんでした。実は、ここに大きな落とし穴があったのだと、今になれば分かります。

今年の4月に新しく会社を起こしました。当然のことながら、資本金=現金預金だけで事業を展開せねばなりません。私は、初めて自分で起業したことで、手元資金で営むのが経営の原則だということが分かったのです。経理においてキャッシュフロー計算がなぜ大切なのかが今になって分かったのです。極端な言い方をするなら、経営は預金通帳の出し入れさえつかんでおればいいということです。月初、月末にいくらお金があるのか、先月末から今月末までいくら増減があるのか、来月はこれでいけるのか、まるで家計のようですが、基本的には家計と同じだったのです。私はよく親父に言っていました。「親父、会社の経理と家計は違うんやから、定期、定期言うなよ」 今思えば恥ずかしいかぎりです。会計など全く知らない親父の方が正しかったのです。

親父のように一から事業を立ち上げたことがなかった私は、生半可な知識と世の中の風潮に惑わされ、経営の原則を理解していませんでした。親父は自分の手元資金で商品を仕入れ、集金した金でまた商品を仕入れるという繰り返しで、会社を大きくしていったのでした。それ故、現金の大切さをよく知っていたのです。会社の大きさは関係ありません。手元資金を多く持っている会社が生き残ります。預金をたくさん持つことが非効率などとの戯言に耳を傾ける必要はありません。極端に言うなら、会社経営は預金通帳の管理だけしてればいいとも言えます。預金通帳を通して見る姿こそ本来の会社の姿です。経営の基本がそこにありました。