日本企業が守り続けているもの
ビジネスコラム私の息子は中学を卒業してからアメリカへ渡り今もアメリカで暮らしている。私自身がかつて縁があったハワイ島の高校へ入学し、その後シアトル大学を卒業した。卒業後、日本に帰ることなくシアトルで大手保険会社に入社していた。その後、一時帰国し東京で外資系調査会社に2年勤めた後、再度渡米し現在に至っている。
今はシカゴにある自然エネルギー関連会社に勤めている。シカゴ近郊に家を構え妻と3人の息子の5人家族で暮らしている。もう35才になる。現在の年収は2500万円くらいだという。円安の影響もあり円換算すると多いように思えるが本人に言わせると物価高等があり、そう多くもらっている感じがないと話している。
大学を卒業してから今の会社で4社か5社目の勤め先になる。彼がシアトル大学を卒業した後インターンシップとして大手保険会社で1年程度仕事をしていたと思う。以後いくつかの会社に勤めているが転職のたびに年収は上がっていたようだ。30才のころ2年ほど家族を連れ東京の我が家の近くに住んだことがある。
勤め先は東京神谷町にある米系調査会社に行っていたようだ。帰国に際し就職先の心配はしていなかったものの、東京都内の物価高を考えると息子家族が暮らせるだけもらえるのかが不安だった。聞けば1000万円くらいもらってるというので安心したものだ。その後再度渡米し物流会社を経て現在の会社に至っている。
私の息子の話を聞くたびに日本の就職事情とかなり違うなと思ったものだ。まず大卒の就職が日本とは違いインターンシップ経ることが多いということ。企業はインターンシップを通じ新卒者を評価していく。そして能力のある者とのみ雇用契約を結んでいく。企業が必要としているのは自社にとって即戦力となる若者だという現実的な事情が優先されるからだ。
次にアメリカでは転職が必然のように繰り返されるということ。私の息子に尋ねたことがある。いい会社に入ったから頑張ればもっと給料が上がるのだろと。それは難しいのだという返事だった。今の雇用は今の給料も含めた条件で契約されているからだという。交渉はできるが難しいだろうとのことだ。
さらに、では頑張っていい業績をあげることができれば昇進はできるのかと尋ねると。それも今回の雇用契約では難しいという。上のポジションに着きたければ一旦退職してキャリアを積んで再度雇用契約を結ばないとならないという話だった。昇進もまた交渉は可能だけれどとても難しいらしい。
同じ会社で昇給だけでなく昇進も難しいなら働くモチベーションがなくなるのではと思うのだがそれが一般的らしい。そういう仕組みでは会社への忠誠心、愛着心といったものが希薄になるのではと危惧してしまう。私の息子にしても今よりいい条件のオファーがくればいつでも転職に応じるつもりのようだ。
私の息子と話しているなかでもうひとついつも話題になることがある。アメリカの企業では息子たちのようなフロアーメンバーとボードメンバーとの格差がとても大きいという話だ。要は一般社員と役員などの経営陣との給与所得に大きな差があるということだ。よく言われていることだがアメリカの大手企業の経営陣の給与が日本企業のそれと比べ何倍、何十倍も多いことが知られている。
私の息子は今後もアメリカで暮らすようだ。これからの彼のキャリアハイを考えるといつかどこかの大手企業でボードメンバーとなるか、あるいは起業をするかのいずれかを目指すことになるのだろう。私と違い息子は計画的で堅実で慎重なのでなにも心配することはないと思っている。
それにしてもアメリカ企業と日本企業とでは社員の雇用、採用や昇進、昇給といった仕組みや在り様が大いに違っている。どちらがいいとかではなくそれぞれの現状の在り様はそれぞれの国の歴史や文化という背景があっての今の在り様だということを理解しておく必要がある。
私はそういう意味で日本企業には日本企業ならではの在り様があって当然だと思っている。なんでもかんでもアメリカ企業の在り様の方が正しいとはどうしても思えない。今の日本経済が不況だから日本企業の在り様が間違っているといった短絡的な指摘にはなんの価値もないと思っている。
国の宝である新卒者の採用の在り様、終身雇用という長期的雇用の在り様、定期昇給という昇給の在り様、社内昇進という昇進の在り様などの日本企業ならではの仕組みがある。バブルの崩壊、デフレの長期化などの経済状況がありながら日本企業の多くは今でも新卒採用、終身雇用、定期昇給、社内昇進などの在り様を維持し続けている。
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