人が成長し成功するには近道がある

ビジネスコラム

 若竹がすくすくと天を目指して伸びるさまはすがすがしい。一方、小さな苗木が長い時間の経過とともに大きな太い幹を持つ大木になる姿は雄大だ。人が成長するにもいろんなタイプがある。恵まれた才能と稀な想像力を持って一気に成長する若者がいる。一方、目上の人の言うことを素直に聴き地道に愚直に実践に努める若者がいる。
 
 経営コンサルタントをしていると人が成長する様を身近で見ることになる。人の意見に耳を貸すことがなく己一人の才覚と創造力、行動力であれよあれよという間に事業を大きくする人を見ることがある。一方、人に素直に教えを請い、進む方向が決まると後はひたすら愚直に実践に励む人がいる。
 
 前者の場合、観ていてこちらも非常に楽しく面白い。ただ、やるがままに放っておくととんでもない方向に進んでしまうことがある。そういう時は、やみくもに叱るのでなく、また教えるのでもなく盆栽を育てる際にこまめに不必要と思える枝を剪定するように淡々と矯正するのがよい。
 
 後者の場合、最初にやるべきことを話し合っておき、進む道が決まったなら後は静かに辛抱強く見守ってやればよい。ときたま声を掛け状況を聞いてやればよい。問題が起きれば都度話し合って解決する。基本、素直なので人の意見を聞くことができる。そのうえで自分で判断し修正しながら成長していく。
 
 親子経営コンサルタントの醍醐味は後継者の成長を身近で見られることだ。いろんな会社があるようにいろんな後継者がいる。驚くほど優秀な後継者がいれば呆れるほど問題が多く困った後継者もいる。どちらの場合も私が関わることで彼らに何らかの変化を与えることができることが面白く楽しい。
 
 私が関わったすべての後継者が上手く成長した訳では当然ない。私が彼らと上手く関係を作ることができなかった結果だ。人と人との関係ではよく云われる馬が合うとか波長が合うといったことがある。逆にどうしても上手くいかない関係というのがあるものだ。この場合、私の力不足と言う他ないことになる。
 
 昨日、久しぶりに訪ねてくれた後継者がいる。父親が経営する会社に帰ってもう2年が過ぎる。7年前、大学を卒業し大手飲料メーカーに勤め始めたのを機に私の塾生となった。月に一度、私のところで中国古典『大学』『論語』をビジネスで読み解くセッションを重ねた。当初は会社勤めに慣れず戸惑い荒れたときがあった。
 
 3年の会社勤めを無事に終え、当初の予定を変更し大学院で経営を学ぶことになった。その後、無事大学院を卒業しMBAを取得し父親の会社に入社した。そして2年が過ぎた。父親の彼を見る目が変わったようだ。もう数年で彼に社長を譲ると言っている。私から見てもこの2年間、父親の会社で十分に揉まれたように思える。
 
 彼の長所はやはり素直なところだ。人の話を何の色眼鏡もなくストレートに聴けることが大きい。理屈が多い者は何かと注文を付け人の話を聞く。結果、人の話を聞いたとしても聴き入れることはない。折角の機会をみすみす逃すことになる。その点、素直な者はそれを機会として成長する。その差は非常に大きい。
 
 彼が数年後、父親に代わり社長となってからがさらに楽しみだ。どのような社長になるかは彼次第のこと。ただ言えることは彼が今の素直さをいつまでも持ち合わせていたなら何も心配がないということだ。それほど人が素直であることは大切なことなのだ。身勝手な利巧さより愚直な素直さがとても尊い。