経営者が挫折から立ち直るとき

ビジネスコラム

 コロナ禍にあって苦境に喘ぐ経営者や個人事業主が数多くいる。人々の活動が人為的、強制的に制限され続けている。さらに期限を明示されずいつまでこの状況が続くか分からない。誰もが先行きを見通せず不安を抱えている。企業のなかには売り上げが減少し続け運転資金の不足に悩まされているところが多くある。
 
 経営者も人の子だ。苦境がこうも長引くと身体的に精神的にも参ってしまう。個人事業主は当然のこと、数多くの社員がいる経営者も孤独を強く感じる。苦境を打開しようとあれこれと考える。考えても考えてもこれといった答えが出てこない。そうするとさらに考え込んでしまう。まさに負のスパイラルに入り込むことになる。
 
 昨日、以前から付き合いがある個人事業主が相談にやってきた。コロナ禍をまともに食らったようだ。まったく売り上げが立たず開店休業状況が続いている。誰にも相談できず悶々とした時間を過ごしてきた。妻が久しぶりに訪ねたことで彼女の窮状が分かった。独りで考え込まずに我が家においでということで来宅となった。
 
 話を聞いてみると元々あまり芳しくない業況のところにまともにコロナ禍が襲ったようであった。私のアドバイスは簡単だ。事業の原点に帰ってシンプルにビジネスモデルを立て直す。業績が上手く良くならないときにいろいろと手を加えてきたことが多くある。それらをすべて取っ払ってシンプルに一から立て直すことを伝えた。
 
 不思議なものでやるべきことが明確になると人は行動できるものだ。独りで考え込むことで同じところをくるくる廻っているだけとなり精神を病むことになる。鬱病かと思われるまでいってしまう。放っておくとそれこそ深刻な事態にまで至る。そんなとき適切、適当な相談できる第三者がいれば救われることがある。
 
 彼女もそうだが、こう苦境が続くと経営者はこれまでやってきたことすべてが否定をされたかのように思ってしまう。まるで自分自身まで否定されたかのように思えてくる。そして気が付くと経営者は自信を失くしてしまっていることになる。経営者が自信をなくしてしまうとすべてが止まってしまう。
 
 経営者のみならず人が一旦自信を失くすと簡単には元に戻ることがない。なんとか動き出そうとするが、何をやっても上手くいかないことが続いてしまう。そうするとまた自信を失ってしまう。いったい自分はどうなったのだろうと途方に暮れてしまう。そしてやがて動くことを止めることになる。
 
 私自身、かつて倒産という大きな挫折を経験した。挫折からの回復にも時間がかかる。会社の倒産のみならず個人も自己破産をしている。それに伴い多くのものを失くしている。資産のみならず人、物、金すべてを失くすことになる。さらにはそれまで築いてきた信用、信頼、権威、特権なども無くなる。
 
 そして何よりも大きな大事な失くしものがある。それは「自信」。私の場合も多分に漏れず挫折からの回復に苦労したものだ。その最大の原因がこの「自信」を失くしたことだ。それに気が付くのにまた時間がかかった。何かを始めなければと思い始めるのだが必ず失敗してしまう。何度やっても結果は同じ。
 
 そしてようやく気が付いたのだ。そうか俺は自信を失くしていたのだと。そう気が付いてから少しずつ物事が動き始めた。少しずつの行動と結果の積み重ねがあって少しずつ自信がもどってきたように思われた。もうあれから10年が経つ。今だから言えることがある。かつて自信だと思っていたことは実は本当の意味での自信ではなかったのではということだ。
 
 以前、私が自信だと思っていたものは実は過信に過ぎなかった。経営者のみならず各種団体のリーダーを歴任していた自分を見誤り過信していたに過ぎなかった。それ故にあれしきの挫折で脆くも崩れたのだと今はそう思う。本当の自信とは字の通り、自分が自分自身を信じることに他ならない。
 
 実は今日も朝から彼女がやってきた。彼女の持つスキル、センスは非常に優れたものがある。それを信じることからはじめよう。彼女の顧客の多くが実はそれを知っている。そう思っていなかったのは彼女だけだ。今日はその話を何度もした。自分のスキルとセンスを信じよう。そこからやり直そう。そう彼女に話をした。