親子経営 繁盛と繁栄の秘策  その強さと真価 6  長期的視野を持つ経営 (2016年3月11日)

ビジネスコラム

長期的視野を持つ経営

先日テレビを観ていましたら660年続いている老舗和菓子店の様子が出ておりました。番組ではフランスから洋菓子店のオーナーが来日して日本の伝統和菓子を取材するといったものでした。

東京中央区明石町にある塩瀬総本家という和菓子店が取材されておりました。34代目店主の会長が一行を工場へと案内していろいろと説明されていました。なんといってもこだわりは代々続く餡の作り方だと言っておられました。

老練な職人が作るその餡は絶妙な火加減で時間をかけじっくり炊き上げ、甘さの加減と固さの加減も長年の勘と独特の感覚により練り上げられ見ているだけでその美味さが伝わってくるようでした。

その後ホームページを見させて頂くと創業1349年(室町時代)奈良で日本で初めて餡入り饅頭を作り始めたとありました。1460年に京都へ移り1659年に江戸に移転とありました。そして戦後1950年に現在の明石町に移るとありました。

この老舗和菓子店から窺える長年に亘る繁盛と繁栄の秘策について考えてみます。まずひとつは、660年という年月、味を守り続けるため厳しいまでの職人技術の伝承にあると言えます。

もうひとつは世の中の流れに機敏に対応してきたことだと言えます。室町時代に奈良で創業したものの室町御所との関わりが出来たものか京都へと移っています。そして江戸時代に入りこれからは江戸が中心とみるとすかさず江戸へ進出しています。

江戸では江戸城の御用を承ったとあります。また明治に入り宮内省の御用も承ったとあり、まさに時勢時流に乗った商いをしてこられた観が見受けられます。歴代店主の時代を見る目の確かさと素早い行動力の賜物かと感じ入ります。

同族企業の強さのひとつが長期的展望に立った経営戦略を立てることが出来ることです。まずは親から子へと50年くらいのスパンでビジネスを考えることが出来ます。孫の代まで入れると6、70年先のことまで視野に入ることになります。

それこそ子子孫孫までのことを考えると先ほどのような老舗企業のように100年、200年といったロングスパンで自社のビジネスプランを描いておくことまで在り得る話となります。

ここで論語から一節、「子日わく、歳寒くして、然る後に松柏(しょうはく)の彫(しぼ)むに後(おく)るるを知るなり。」と、あります。

私なりの解釈をいたしますと、「季節が巡り冬も深くなると松や柏の葉が散らずに残っていることに気づくものだ。」となります。春、夏、秋の賑やかな風情のなかでは松、柏などの木の葉の青さが目立つことなどありませんが、冬ともなれば多くの草木が枯れ果てるなかにあってその青さがなんとも美しく映るものだ、とでも言えるでしょうか。

ひとりの人間の長い人生に於いて順風のとき逆風が吹くときがあります。他人から見れば順風だと見られているときはその人の内面まで見透かされることがありませんが、逆風にあるときはその人の真の姿が見られることになります。

人間、逆境にあるときこそ松や柏のはのごとく青々とした葉を見せたいものだと思います。人間としての真価が問われるのが逆境にあるときだと言えます。企業も同じ様に好調、不調の波が絶えずやってきます。

好調なときには目立たないけれど不調なときに際立つべきなのが経営者の存在だと言えます。私の経験からすれば好調なときにこそじつは不調となる原因があります。まさに好事魔が多しです。

なにか問題があるとき短期的視野も必要ですが、長期的視野に立った解決策も必要なのではと考えます。まさに上記の老舗菓子店の歴代店主があの戦乱の世を生き抜いてこられたのも長期的展望があったればこそだと思われます。

昨今では商品の流行りすたりといった商品価値の寿命に始まりサービスモデルやビジネスモデルの寿命に至るまでビジネスサイクルがとても速くなっています。極端なところでは業界そのものが無くなってしまうといった話まであります。

このような時代だからこそ長期的視野に立ち長期的展望を巡らし自社の事業の見直し見極めが必要かもしれません。他社と同じ土俵ではなく自社独自の土俵が現れる可能性を感じます。