親子経営 繁盛と繁栄の秘策  その強さと真価 7 後継者の選択と育成 (2016年3月11日)

ビジネスコラム

後継者の選択と育成

最近仕事柄、後継者である子息の育成に悩んでいる経営者の方に多く出会います。その都度、「そんなことで悩まないでください。そもそもご自分で子息を教育しようとすること自体に無理があります。」と言っています。

その理由についてはこのシリーズ~父親自ら育て得ない~で書いていますのでお読み頂ければと思います。要約すれば、父親は自らの経験から様々な問題に対してこうすれば上手くいくということを知っています。

それ故に子供に対していちいちこうしろ、ああしろと言ってしまいます。自分が経験したことだからそれが間違いない、正しいのだと言います。父親が言うことが正しければ正しいほど、子供は反発してしまいます。

そしてそれが世間が認める立派な経営者である父親であればなおさら後継者である子供は反発します。父と息子が仲がいい、悪いではなくまた相性がいい、悪いということが関係するのでもありません。

理由は父と息子だからという他ありません。父と息子という不思議な関係、厄介な関係が為せることとしか言いようがありません。なにしろ2300年も前の孟子が昔からそう言われているというのですから仕方がないのです。

ではどうすればいいのかということです。これにも孟子が答えてくれています。自分の子供を他人の子供と取り換えて教えなさいと言っています。要するに自分の子供は自分で教育せず第三者に育てて貰えと言ったということです。

先日ある建設関連会社の社長にお会いしました。一代で築いてこられた会社ですが、ご夫婦に子供さんがなく今年35才になる社長の甥御さんに継がせたいと思っているとのことでした。

社長自身が職人であり、これまで多くの職人を束ねてこられ、また他の親方連中との連携でたくさんの現場をこなしてこられました。気づいてみると多くの職人を抱える会社になっていたのだと言っておられました。

そんなわけで自分自身を経営者だと自覚したことがなく甥を経営者にするための教育など出来るはずもないので相談に来たと仰っていました。私は先の自論をお話しして是非とも甥御さんを第三者に預けることをお勧めしました。

この場合は息子ではないのでケースが違うのではと思われますが、叔父と甥という関係もなかなか微妙なものです。実の親子ではないので互いに「遠慮」があります。この「遠慮」が良いように働くときがあればまた逆に悪いように働くことがあります。

また実の親子ではありませんが、互いに慣れてくると互いに「甘え」が生じます。この「甘え」が遠慮と同じく好悪両方に働くことがあります。よって実の親子ではありませんが直接教育するより第三者に委ねることをお勧めしました。

ここで論語より一節、「子日わく、老者は之(これ)を安んじ、朋友は之(これ)を信じ、少者は之を懐けん。」とあります。私なりの解釈をいたします。

弟子の顔淵と子路がそばにいたとき孔子がそれぞれの志を聞いたのち二人に自分の志を問われ答えました。「老人には心安らかでいてもらい、友人たちとは信頼しあい、若者たちとは親しまれたいものだ。」

私が先の甥御さんをもし預かったならまずこう言いたいと思います。「叔父ご夫婦をまず安心させてあげてください。親方仲間や同僚たちとは信頼関係を築いてください。若い職人たちにはどうぞ心から親しまれて懐かれてください。」

同族企業の強さのひとつが後継者問題においてまず身内親族の中から後継者を選ぶことが出来るということです。子息、息女からあるいは娘婿からそして自分の兄弟、姉妹さらに叔父、叔母、甥、姪にまで広げることが可能なことです。

また、現時点で適当な後継者が身内親族にいないときは、まったく第三者で経営手腕の長けた者をワンポイントリリーフとして経営に当たらすことも可能なことです。オーナーとして企業を存続させる最善策を取ることが出来るのも同族企業ならではのことです。