出版奮闘記(3)

敬天愛人箚記

出版奮闘記(3)

「こんにちは。ビジネス書の著者ですが、ご担当者の方にご挨拶させて頂きたいのです
が。よろしくお願いします」
今日も午前中一仕事を終えた私は書店営業に出かけました。

今日の出足の書店は全国に数十店舗を構える中堅書店でした。
以前から5,6冊を平積みで置いて頂いている店ですがまだ一度も担当者に会ったことが
ないので出向きました。

「今日はまだ担当者は来ていません」
どうしたらこれほど無表情に話せるのかと思うほど全く表情を変えることなく女性の
店員さんが言われました。

「そうですか。ではこのパンフレットをご担当者にお渡しください。よろしくお願い
します」
私がパンフレットを出しながら本の紹介をしている間も、その店員さんは作業の手を
休めることなくひとかけらの笑みを浮かべることなく全くの無表情で応対されました。

多くの店員さんはビジネス書の著者だと分かるととても丁寧な応対をしてくれます。
どんな業界でも同じでしょうが中には上から目線で話される店員さんに出会うことがまま
あります。

この店では絶対本は買うまいと思ったことも何度かあります。
聞くところによると、大手書店の女性店員さんの多くは結構良い大学の出身者が多いと
言われました。

なにかしら出版の仕事に携わっていたいという女学生がその延長線上で大手書店へ就職
されるらしいのです。
しかし現実に働き始めると一日中立ちっぱなし、本の入れ替え作業に日々追われっぱなし
と、思った以上の重労働だと気づき始めます。

その結果の無表情かと勘ぐってしまいます。
そんな店員さんに本日最初の営業で出会ってしまったのかもしれません。
その後12店舗廻りましたが優しく対応して頂きました。

ビジネス書で3万部出ればベストセラーだそうです。
ほとんどの本が初版で終わってしまうのが現実です。
たとえ大手出版から出したとしても売れない本は売れません。

また、いい本だから必ず売れるということもありません。
なかにはどうしてこんな本がこれほど売れるのということがあります。
こんないい本がなぜ売れないのだろうということも多々あります。

出版は水物とはよく言ったものだと思います。
当たれば一気に業績が上向きます。
売れなければ店じまいもあります。

私の本の出版社の親父のビジネスモデルはよく考えてみると手堅いものです。
初版の約3割を著者に買わせます。
そこで製本の原価は取れていることになります。

その後残りが売れれば利益になります。
社版が完売すればそれで一応ビジネスは完結です。
無理に増刷する必要はありません。

増刷は私たち著者にとってはこの上なく目出度いことで嬉しいことです。
しかし私の出版社の親父にとっては増刷はリスク以外の何物でもないのです。
増刷して売れる保証などないのですから。

著者の方たちはそうとは知らず何とか増刷してもらおうと必死で売ります。
努力のかいあってようやく初版を売り切ります。
当然、出版社は増刷してくれるものと信じて疑いません。

待てど暮らせど出版社から増刷の声がかかりません。
著者は売れているのに増刷してくれないと憤慨します。
出版社の親父に言わせれば初版を売り切るのが精いっぱいなのに増刷など出来る
はずがないとなります。

私は自分の本を密かに3万部売ると心に決めています。
増刷をリスクでしかないと考える親父とこれから虚々実々の駆け引きをしながら
なんとか増刷を積み重ねていこうと誓っています。

もし運よく3万部を出すことが出来たとき、またみなさんに出版奮闘記をお話ししたい
と思っています。
そうなることを願って明日からも書店営業に励みます。